下館和巳
第六幕
「エジンバラに行く」

プロフィール

1955年、塩竃市生まれ。

国際基督教大学・大学院

卒業。英国留学を経て東

北学院大学教養学部教

授。比較演劇選考。シェ

イクスピア・カンパニー

主宰


私たちの劇団は来年、つまり2000年の8月にスコットランド・エジンバラ・フェス
ティバルに参加する予定である。30人を超えるメンバーが海外遠征するとなるとオ
ドゲデナイので、この夏エジンバラに下見に出かけた。                    
 飛行機でスコットランド通のオランダ人と一緒になった。「どこに行くのか?」
と聞かれたから「エジンバラだ」と答えると、「あそこは北のアテネって呼ばれて
るんだよ」と説明してくれた。私はアテネに行ったことがないものだから、「アテ
ネ以外に例えればどんな街でしょうか?」と問い返すと「プラハかなぁ」なんて嬉
しそうに答える。プラハにも行ったことがない私は、少し気まずくなって、後は黙
ってしまった。        
 アテネのようなプラハのようなエジンバラの街に着いて、私はそのエキゾチック
な美しさに息をのみ、なぜか一気に3つの街を見てしまったような得した気持ちに
なった。  
 ホテルに着くと、 シャワーも浴びずにパブに行く。 気温は19度と秋のようだっ
たが、夜の8時過ぎでも空は青々として明るい。 日本では決して飲めないシャンデ
ィ (レモネードとラガービールのブレンドでとても素敵な味だが、どちらかといえ
はご婦人向き)をグビッ、グビッと喉に通していい気持ちになっていると、中年の
カップルが隣の席に腰掛けたので、 どちらからともなく話しだした。 独特のスコ
ットランド訛りがあって、何を言っているのかよく分からないところもあるが、ひ
となつっこくて温かく、あっという間に友だちになった。
 あれよあれよという間に、カップルの仲間が加わって、私たちの一角は10人近い
団体になっていた。「お客さん集めも大変だろうな。でも、心配しなくていいよ、
みんなで友だち連れてあんたの芝居見に行くから。最低20人はいるぞ」なんて言っ
てくれるので、私は思わずジーンとなった。                             
 「それで、出し物は何か?」と問われたので、私が「マックベース」と英国風に
発言すると、 みんな揃って顔を見合わせて首を横に振る。 そして、コーラス隊の
ようになって「ムックビィース」とスコットランド風発音の見本を示す(それもそ
のはず、マクベスはスコットランド人なのだ)。「違うなぁ」などと言われながら、
私はしばらく発音練習をさせられた。                                  
 ホテルヘの帰り道、「ムックビィース」と繰り返しながら歩いていると、なんだ
かその音が東北弁の響きに似ていて、東北とスコットランドがとても近いような気
がして嬉しくなった。                                    
                                     (つづく)


朝日ウィル 1999年9月28日号より