演出ノート

  私たちは、『マクベス』の舞台をスコットランドから、古代から中世の過渡期の日本

は奥州に移して、前九年の役、後三年の役における蝦夷人達の後継者争いの中に、

ドラマを展開させていく。この悲劇の中核に関わる魔女は、恐山の巫女イタコである。

マクベスは自らの内なる声を、イタコの口に求めて、滅びの坂を転げ落ちていく。

イタコの呪術的な語りを通奏低音として、舞台は東北特有の土着的匂いに満ちる。

私たちは、せりふの中にうねり流れる闇と光、血と乳、衣装と肉体、静寂と響きといっ

た拮抗する豊饒なイメジャリと劇的アイロニーを最大限に生かす言葉をまさぐりなが

ら、自ら選んでしまった運命を生きるしかなかった哀感と孤独を浮き彫りにしていく。

 

 『恐山の播部蘇』の新しい挑戦は、東北各地津軽、下北、南部、秋田、庄内、仙台、

会津などの方言に通奏する音(おん)である鼻濁音や中舌母音にこだわりつつ、

東北方言の語彙に宿るエネルギーに注目して、原文のヴォリュームやイメージに釣り

合った言葉を選択して、必ずしも純粋方言のせりふではない、シェイクスピア言語の

磁力を借りて創りだされた劇言語としての方言、舞台語としての方言、芸術語として

の方言を模索したことにある。その試みの根底にあるのは、舞台では人間の人生がた

った二時間程のドラマに凝縮される、とすればドラマの言葉が日常の言葉と全く同じ

であるはずがない、という考え方である。

 

 役者がせりふとして言葉を発する時に要になるのは、言葉のマスキュラリティである。

マスキュラリティという英語からは筋肉というイメージが浮かぶが、身体性とい

ってよい。つまり言葉はどこから息を出すことを求めているのか?言葉は歯と舌と口

の周りの筋肉にどんな動きを求めて、そこからどんな感覚や感情が生まれるか?とい

うことである。共通語と比較して東北弁は、身体的言語としての特質が濃い。少なく

とも、東北弁の音(おん)は、共通語を話す場合とは違った顔の表情と仕種を要求す。

言葉と身体は不即不離だからである。シェイクスピアと融合し、衝突する東北弁

から何が生まれるのか?観客の皆さんには、言葉の意味というよりはむしろ、役者か

ら発せられる言葉の音(おん)を堪能していただきたいと思う。

 

シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳

 


キャスト

藤原弾家(ふじわらだんか) 犾守 勇
藤原麿家(ふじわらまろか) 里野 立
藤原道就(ふじわらどうなり) 土井敏之
清原播部蘇(きよはらまくべす) 両国浩一
播部蘇御前(まくべすごぜん) 星真輝子
安部磐乎(あんべばんこ) 戸田俊也
安部芙李鞍(あんべふりあん) 浅利由美子
安部播那夫(あんべまくだふ) 菅ノ又 達
播那夫御前(まくだふごぜん) 要 トマト
安部澪丸(あんべれいまる) 阿部かおり
物部零之(もののべれいの) 神蔵康紀
宇曾利呂巣(うそりのろす) 千坂知晃
橘按蛾(たちばなのあんが) 塩谷 豪
大宅景周(おおやのけいす) 犾守 勇
平鷲和(たいらのしゅうわ) 迷亭沙翁道
平和之進(たいらのかずのしん) おさる
吉彦椎敦(きみこのしいとん) 石田 愛
五戸十兵衛(ごのへのじゅうべえ) 菅ノ又 達
軽米次郎(かろまいじろう) 岩住浩一
とよ 要トマト
錠兵衛(じょうべえ) 岩住浩一
よま[ごろつき] 土井敏之
くぼ[ごろつき] 塩谷 豪
ごんど[ごろつき] 神蔵康紀
薬師(くすす) 長保めいみ
真耶(まや) 浅利由美子
  おさる
オガミサマ[イタコ] 長保めいみ
ゴミソ[イタコ] 石田 愛
ゴゼ[イタコ] 西間木恵
鬼剣舞師 菅ノ又達
  里野 立
  戸田俊也
亡霊 土井敏之
  塩谷 豪
柵主奥方 石田 愛
  西間木恵
  阿部かおり
  長保めいみ
女中 要トマト
  おさる


スタッフ

翻訳・脚本・演出 下館 和巳
脚本構想 下館 和巳
  丸山修身
ステージ・マネージャー・演出助手 山路けいと
ジェネラル・マネージャー 伊東正道
エディトリアル・マネージャー 鹿又 正義
舞台技術監督 要トマト
音楽・音響 橋元成朋
(仙台公演) 志賀 眞
照明(康楽館) 名畑目雅子
衣装デザイン 西間木恵
衣装製作 石田 愛
  浅利由美子
  阿部かおり
  塩谷 豪
舞台装置 梶原茂弘
  千葉安男
大道具 菅ノ又 達
  戸田俊也
小道具 長保めいみ
  千坂知晃
  里野 立
  土井敏之
  岩住浩一
メイク おさる
  星真輝子
  両国浩一
ポスター,舞台オブジェ 庄子 陽
ポスターデザイン 佐藤正幸
  根元 弥
フォトグラフ 中村ハルコ
記録 阿部文明
  小笠原直人
プログラム編集 犾守 勇
  おさる
  千坂知晃
広報(仙台) 名畑目雅子
  長保めいみ
  里野 立
  神蔵康紀
広報(東京) 礒干 健
広報(ロンドン) ジェイミー・バラード
シナリオ記録 おさる
会場係 千葉妙子
  梶原祥子
  千葉なつ美
下北弁指導 竹内洋一
秋田弁指導 浅利由美子
  浅利智美
アドバイザー 藤原陽子
  松田公江
スーパーバイザー 大平常元
制作 シェイクスピア・カンパニー