演出ノート

演出ノート『から騒ぎ』

 

 『から騒ぎ』では、結局、たいしたことは起こらない、というと取りつく島がないが、題名の通りで「騒ぐほどのことじゃないことを大袈裟に騒ぎ立てた」芝居である。男と女の恋と結婚の話に、『オセロウ』や『冬物語』を思わせる悲劇の調子が漂ってる。この芝居の魅力は、話の筋というよりも、登場人物の魅力にある。

 

 ベアトリスは、女は男に従属するものじゃない、といってはばからない現代にも通じる女性である。そして、そういう女性を受けとめられるベネディックがいる。ベアトリスの対極にヒァローがいる。しかし、彼女も単なる「かわいこちゃん」ではない。あきれるほど単純なクローディオがいる。イアゴーほどの悪党ではないが、ともかく人生が面白くないドン・ジョンがいる。劇の後半になって登場し、ボケの味で観客を魅了するドグベリー達がいる。

 

 『から騒ぎ』には、ジェンダーの問題がある。つまり、男って何?女って何?という問いかけがある。死と再生を通しての人間の成長というテーマがある。下の階級のものが、上の階級の問題を解決していくというアイロニーがある。しかし、その中でいきいきと動き、話している登場人物達の魅力こそがこの劇の醍醐味といえるだろう。

 

 『から騒ぎ』の原作の舞台は、イタリアのシシリー島である。そこを訪れた戦帰りの貴族達が騒動を巻き起こす。人と人が交われば何かが起きる。戦争の替わりに、ここでは恋を潰しにかかった…。結局、時の場の設定は、自由だと考えた。(『ヴェニスの商人』ならば、そうはいかない)

 

 この作品を読み直している時に、たまたま、話題の三内丸山遺跡を訪れた。驚いたのは、そのスケールの大きさ、私たちの立つ地表のすぐ足下から発掘されている土器(三千年以上も前なのに意外に縄文は近い!)、そして何よりも私の興味を引いたのは、縄文人がなかなかお洒落だったということだった。人がお洒落をする理由はいろいろだろう。しかし、異性を意識することも、その理由の一つに違いないと思えた時に、縄文人の恋に想像が膨らんだ…戦争もないおおらかな生活の中で、遊び心と恋は一大関心事だったろうと。

 

 もう一つは、今年の春に私たちの頭上のはるか彼方を流れたヘール・ホップ彗星である。あの彗星を、縄文人も見ていたかもしれない…。

 

 こうして、私の中でシェイクスピアと縄文人の恋が、平成の私たちと縄文時代が結びついた。

 

 

シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳


キャスト

役名 原作名 役者名
ホタテのひも (レオナート) 犾守 勇
ヤマネコ便 (使い) 西間木 恵
鼻っ柱の強い女 (ベアトリス) 要 トマト
白い風 (ヒァロー) 石田 愛
北のムササビ (ドン・ペドロ) 両国 浩一
アザラシの髭 (ベネディック) 菅ノ又 達
青いイノシシ (クローディオ) 里野 ぱちる
黄色いトウガラシ (ドン・ジョン) 長保 有美
踊るイワシ (アントーニオ) 千坂 知晃
アツガリネコ (コンラッド) 山路 けいと
サムガリイヌ (ボラチオ) 神蔵 康紀
カルッシーリ (マーガレット) 鷲見 直香
オモッシーリ (アーシュラ) 西間木 恵
大豆のあぶら (ドグベリー) ラフランス 皆川
キツネの耳 (ヴァージス) 千坂 知晃
アメンボ (夜警1) さわらちょく
コオロギ (夜警2) 岸 典之
タマゴノシロミ (召使) 千葉 なつ美
ノコギリの歯 (修道士) 山路 けいと
グー・チョキ・パー (書記) 西間木 恵

スタッフ

翻訳・脚本・演出 下館 和巳
ジェネラル・マネージャー 伊東 正道
ステージ・マネージャー 坂本 公江
音 楽 高橋 明久
音 響 橋元 成朋
照 明 志賀 眞
衣 装

山路けいと

西間木 恵

石田 愛

舞台美術 長保 有美
舞台技術 要 トマト
舞台装置

梶原 茂弘

千葉 安男

大 道 具

菅ノ又 達

両国 浩一

小 道 具 千坂 知晃
メ イ ク

星 真輝子

おさる なおこ

グラフィック・デザイン 大木 裕
フォトグラフ 中村 ハルコ
プログラムフォト 阿部 文明
編 集 犾守 勇
広  報

長保 有美

礒干 健

受付

白鳥 佳也子

ペギー 森

シナリオ 記録 おさる なおこ
庶務 平井 淳子
トレーナー 安藤 敏彦
藤沢町公演プロデューサー 皆川 洋一
三内丸山公演プロデューサー 吉川 由美
縄文アドバイザー

藤原 陽子

鹿又 正義

スーパーバイザー 大平 常元
制作 シェイクスピア・カンパニー