演出ノート

『海へ騎りゆくものたち』

 

 「クルミ」や「リンゴの香り」のする台詞を、シングはもとめていた。この戯曲を仙台弁で上演しようと考えた時に、私の頭に浮かんだ言葉は「ホヤとカキの匂い」のする台詞だった。
 「海へ騎りゆくものたち」の原作の言葉はシングがアラン島で聞いたものをもとにしてつくられた。私は大分前に舞台でアイルランド訛りのシング劇を見た経験があるけれども、変化に富んだいきいきとした青さに新鮮な驚きを感じたのを覚えている。標準語では到底あの高くうねるような響きと、野卑さと品格が表現できないということは確信できた。
 この一幕ものの古典をできるだけ忠実に再現しようという方針が決まったときに、この戯曲に貫かれている一つのテーマ、一つのイメージ、一つのトーンを私達は意識した。モーリヤと海は一つである。子を産む痛みと失う痛みを経験する母、男たちに生活を与えその男たちを結局は奪う海。死を悲しむ涙とおえつ。音楽はクラナド。ゲール語でうたわれた悲しみのうた。
 この芝居の中で大道具、小道具のもつ意味は非常に大きい。白い板、縄、網、糸車。この戯曲に流れている象徴性と深くつながっているからである。どれもが登場人物と具体的なむすびつきをもちながら、生と死の二つの意味を担っている。
 暖炉、はしご、窓、テーブルなどの象徴性のないセットはすべて舞台の中心にむかってかたむきゆがんだ青い象徴性のあるものにした。
 繰り返し繰り返し見ることでこの完成度の高い悲劇の細かい網の目が浮かび上がってくると思うけれども、アラン島の匂いが、人々のエネルギーが、感じられればうれしい。

シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳

 

 


キャスト

ガイド A・B・C

旅人の男女

菅ノ又 達

長保 有美

星 真輝子

モーリア

老婆

要トマト

キャスリーン

モーリヤの娘

山路けいと

ノーラ

キャスリーンの妹

波間 晶

バートレイ

モーリヤの息子、キャスリーンとノーラの兄妹

両国 浩一

村の女 A・B

石田 愛

瀬戸 悠

村の男 A・B

犾守 勇

鶴田 浩平


スタッフ

翻訳・脚本 鹿又 正義

演出

下館 和巳

ステージ・マネージャー 礒干 健
音楽

犾守 勇

安藤 敏彦

平井 淳子

瀬戸 美奈子

照明

千坂 知晃

鶴田 浩平

上杉 美和

舞台装置

 

菅ノ又 達

長保 有美

石田 愛

伊藤 ミカ

おさるなおこ

森 真樹子

梶原 茂弘
千葉 安雄

衣装

山路 けいと

鷲見 直香

西間木 恵
犾守 勇

ヘアメイク

先崎 真輝子

グラフィックデザイン

千坂 知晃

フォトグラフ

中村 ハルコ

広報

長保 有美

記録

阿部 文明

庶務

 

坂本 公江

白鳥  佳也子

備前 ゆか

経理

藤原 陽子  

ジェネラル・マネージャー

伊東 正道

アドバイザー 大平 常元


原作

J.M.シング

制 作 シェイクスピア・カンパニー