演出ノート

演出ノート『夏の夜の夢』

 

 『夏の夜の夢』は、『ロミオとジュリエット』とほぼ同時期にかかれている(1595年頃)。そして、この喜劇と悲劇は、恋というテーマで背中合わせの関係になっている。『夏の夜の夢』とは、一言でいえば、五組の男女の恋と結婚の物語である。その内の一組は、職人達の演じる劇『ピルマスとシスビー』の二人であるが、この二人の恋はかなわずに心中で幕を閉じる。この『夏の夜の夢』を一貫して流れているこの劇中劇は、『ロミオとジュリエット』のパロディである。

 

 この劇には気になることが二つある、一つは恋人たちの心変わりがすべて魔法でなされてるということ、もう一つは、あれだけの混乱が、最後に無理やりといってもいい風に丸くおさめられていることだ。そして、考えさせられる、恋の真実は、一体どこにあるのか?と。劇中劇の世界にあるのか?魔法でつくられた世界にあるのか?

 

 この劇のアテネの森は、人間の心の奥にある闇ではないかと思う。実際シェイクスピアの頭の中にあった森は、彼がよく遊んでいたアーデンの森である。自分にとってこの「森」はどこなんだろうか考えた時に、どこも思い浮かばなかった。その頃たまたま仕事でバリ島に滞在する機会があって、ある時ボンヤリと海の匂いをかぎながらガムランの音を聞いていたら、自分にとっての「森」は、「海」だとひらめいた。

 

 バリ島の『夏の夜の夢』。ファンタスティック!しかし、東北弁で、なぜ、インドネシアなんだろう?などと自問自答しているうちに、「エンヤードット」の歌が耳の奥に聞こえてきた。牡鹿半島の先端の山のてっぺんから見える金華山や網地島とその大きな湾に抱えられるようにある小さな松島湾。そして、そこに静かに浮かぶ浦戸諸島がイメージとして私に近づいてきた。漸く、設定が固まる。時は2010年、ところはシオーモの町。島はノンノシーマ。宮沢賢治のイメージを借りてアテネはシオーモこと塩竈に、アテネの森はノンノシーマこと野々島に、職人は魚屋、文房具屋、ペンキ屋、酒屋、豆腐屋に変貌。妖精は?

 

 この劇にはハムレットのような主人公はいない。貴族、職人、妖精と三つの世界があって、その中で一人一人がそれぞれ大切な役割を果たしている。しかし、シェイクスピアの登場人物の中でロミオやジュリエットやオフィーリアのような二枚目とまさるとも劣らない人気を博しているのが、パックやボトムである。原作のボトムはロバに変身させられるが、一体ロバが何に変わるのか?これは見てからのお楽しみ。

 

 この劇の奥深いところに暗い混迷が横たわっている。

 

 妖精の王と女王の手のひらから始まって、恋人達とシオーモの王と女王に引き継がれ、最後に劇中劇の恋人たちを照らすそのほのかな灯りは、河童が自らの頭の皿に託して、『夏の夜の夢』の恋人達に送る、恋の真実の光である。

 

 

シェイクスピア・カンパニー主宰 下館和巳


キャスト

河童 (トンノから来たオーベの手下) 波間 晶
シース (シオーモの王) 里野 立
リタ (シースの婚約者) 石田 愛
フィル (王の側近) 瀬戸 みな
イージ (ミヤの父) 安藤 敏彦
サンダ (ミヤの恋人) 佐々木 俊一
リアス (ミヤの婚約者) 千坂 知晃
ミ ヤ (イージの娘、サンダに恋する) ペギー 森
レ ナ (リアスに恋する娘) 山路 けいと
オーベ (海の妖精の王、マグロの精) 両国 浩一
タイタ (海の妖精の女王、タコの精) 長保 有美
キ ン (シオーモの文房具屋[演出家]) 安藤 敏彦
ボ ン (シオーモの魚屋[オメオ]) 犾守 勇
スーナ (シオーモの酒屋[ウリエット]) 星 真輝子
スータ(シオーモの豆腐屋[壁、月]) 要 トマト
ス グ (シオーモのペンキ屋[ライオン]) 菅ノ又 達
ワカメ (海の妖精) 西間木 恵
ウ ニ (海の妖精) おさるなおこ
カ キ (海の妖精) 瀬戸 みな
ホ ヤ (海の妖精) 鹿又 正義

スタッフ

翻訳・脚本・演出 下館 和巳
ジェネラル・マネージャー 伊東 正道
ステージ・マネージャー 坂本 公江
音楽 高橋 明久
橋元 成朋
照明 志賀 眞
衣装デザイン 山路 けいと
衣装 西間木 恵
石田 愛
美術 長保 有美
舞台装置 梶原 茂弘
千葉 安男
メイク 星 真輝子
グラフィック・デザイン 大木 裕
フォトグラフ 中村 ハルコ
エディター 鹿又 正義
広報(仙台) 長保 有美
広報(東京) 礒干 健
受付 白鳥 佳也子
鷲見 直香
シナリオ記録 瀬戸 みな
プロンプト 千葉 なつ美
記録 阿部 文明
庶務 平井 淳子
伊藤 美佳
経理 藤原 陽子
アドバイザー 大平 常元
制 作 シェイクスピア・カンパニー