下館和巳
第一幕
「万人の心をつかむ」

プロフィール
1955年、塩竃市生まれ。
国際基督教大学・大学院
卒業。英国留学を経て東
北学院大学教養学部教
授。比較演劇選考。シェ
イクスピア・カンパニー主
催。演出。
第-回目は、私たち劇団の座付き作者?であるシェイクスピアの話から始めることにし
よう。

 シェイクスピアには、 40本近い作品があるが、 意外なことにそのほとんどの戯曲に
は種本がある。 話の展開も登場人物も驚くほど種本に近いものが多く、 この世界で
一番有名な劇作家を「偉大なる盗作作家」と呼ぶ批評家もいるほどだ。誰もが知ってい
るあの「ロミオとジュリエット」も「盗作」と呼ばれかねない作品のひとつである。と
言えば、がっかりする方もいるだろうが、既にあるものに目をつけてそこに新しい命を
吹き込み、世界中にその名がとどろき渡る作品にしてしまうわけだから、シェイクスピ
アはやっぱりスゴイ。
 独創性というのは、演劇に限らず学問でも料理でも、 ありとあらゆる分野で大切な
ことだが、人々に受け入れられていく独創性というのは、 創り手がそれを意識してい
るかいないかに関わらず、古いものや伝統とどこかでつながっていることが多いもので
ある。          
 シェイクスピアは、ラテン語が少ししか読めなかったし、ギリシャ語はもっとダメだ
ったようだったが(現代の日本風に言い換えれば、「外国語が苦手」だったのだろう)、
彼は翻訳されたイタリアやフランスの本を通して、 つまり古い物語の中から万人の心
を動かす何かを発見して、それを自分のものにして表現できる才能があったのだ。聞い
たこともない話ではなくて、 どこかで一度聞いたことがあるような話が人に与える心
理的効果というものを、彼は本能的に知っていたに違いない。
シェイクスピアの魅力のひとつは聞く者の心をわしづかみにするセリフにある。王に
なる野心を抱いて、とうとう自分の手で王を殺してしまったマクベスが、 その暗殺の
直後に呟くセリフを、私たちの劇団のできたてホヤホヤの脚本から引用するとこうだ。

「俺は眠りば殺すてすまった。罪のない眠り、もぢゃぐれだこごろの糸ば、 いいあん
べにほどいでける眠り、 一日(いぢにぢ)の終わり、いっペかしぇえだあどのひと
っ風呂(ぷろ)、こごろの傷のぬりぐすり、大自然が恵んでけだうめえもの、人生の
宴会の一番(いづばん)の御馳走(ごっつおう)・・・」。

イギリスの詩人コウルリッジはこの劇作家をこう呼んだ。「ミリアド・マインディド」
つまり「万人の心を持ったシェイクスピアと。
                                      (つづく)                                                                                            (つづく)

朝日ウィル 1999年8月17日号より