怒る

      更新日:2012.8.27

主宰 下館和巳

 

 

 グローブ・アカデミアのダンテ『神曲』を読む会は、この夏二度、塩竃で開かれた。仙台から塩竃に移っても40人を越える人たちが集まっている。ダンテの魅力、恐るべしである。

 先週は地獄篇の8曲。ダンテと彼の先生でローマの詩人ヴィルジリオは、小舟でスティジェの沼を渡る。ダンテは沼の中から体をあげ両手を拡げて威嚇しようとする男に罵詈雑言を浴びせる。穏やかなダンテしか知らない読者は驚いてひく。すると、ヴィルジリオはダンテの首を両手で抱きしめて頬にキスをする。異例のことだ。「よく怒った、えらい」と褒めているのだ。

 怒るということは、恥ずかしいことである。感情を露わにするわけだから、みんなの前で涙を流すのに近い。「怒り」を表す”indignation”と言う英語もその語源には「ディグニティつまり威厳を失う」という意味があるくらいだから、やはりかっこうが悪い感じがする。でも、先生がダンテを褒めて見せたのは、「怒るべき時には怒らなきゃならないんですよ」という事を示唆しているのだろうと思う。

 竹島や尖閣諸島の問題を思いだした。穏和で紳士的な日本人でいたい日本人がいるとしたら、間違いだろう。怒るべき時に怒らなければだめなのだ。そうじゃないとしまいには、日本人は絶滅してしまいかねないからだ。