下館和巳のイギリス日記




イギリス日記附   2003.10.20

 イギリスに吹き込まれた命

このたびの僕のイギリス留学は、死と生に包まれている。
日本を発つ直前に父が他界し、帰国して間もなく娘が誕生したからだ。

娘の名は「はな」。「羽永」と書く。

長女の宇未(うみ)は,marine であって、無限の宇宙空間とこれから未来に育っていく時間、という意味が込められている。
  
次女の創楽(そうら)は、solar であって、文字通り、自ら楽しさを創りだす人であって欲しい、という願いがある。

羽永は、flowerであって、永遠の翼を意味する。

自然を構成する四元素の中の水と火と土を思いつつ、漢字に、それぞれの個性を、祈りのように織り込んだ。

僕は、名前に、呪力が、magic のようなものがある、と信じている。
繰り返し記され、声に出して呼ばれるからだ。意味も音もそれぞれに大切なのだ。
親の思いが名前に凝縮されていく、親の祈りが名前に刻まれていく、僕達もそうだったにちがいない、思いはこうして綿々と続いていく、ことを願っている。

初めは無意識でも、父や母の思いがいつかわかる時があって、その時、もっと力強く、自分に自信をもって生きることができるような気がするのだ。

今、羽永に父の命が引き継がれたような気がして、とても嬉しい。

父の死で、僕の世界の一つの芯のようなものが消え、イギリスの風土と時間が、死から命を育んだ。

その一つは羽永で、もう一つはハムレットだ。
  
イギリスが吹き込んだ二つの命がともに健やかに大きくなっていくことを、心から祈っている。


 

下館和巳のイギリス日記はこの"附"にて最終稿となります。ご愛読ありがとうございました。