下館和巳のイギリス日記




Vol.24   2003.10.6

      有難う、England

 大きな声では言えないけれどもイギリスは、その中でもとりわけケンブリッジ は、天国のようなところである、としみじみ思う。

 ダンテによれば、天国、煉獄、地獄がある から、日本に帰る僕は、さしずめ天国から 煉獄に下る感じである。

 ダンテの『神曲』の中で、最も面白いのは 地獄篇だが、煉獄篇は人間の世界のように 味わいがある。天国篇まで読む人はさすが に少ないが、天国篇の魅力は地獄のと煉 獄を通過しないとピンとこないかもしれない。

 天国はたどり着くところなのだ。

 天国篇は一見、退屈そうだが、実は   光と音楽に溢れている。初めて足を踏み入れた 時、天国はひたすら眩しいのだが、その眩しさ に慣れてくると、光にもいくつもの層があって 光度に微妙な違いがあることに気づく。

 おこがましい言い方かもしれないが、 20歳代、30歳代にイギリスを経験して見えな かった光が、少し人生がわかり始めた 40代のなかばに見えたような気がする。

 皮肉にも、視力も体力も落ち始めて、やっと 見え始めたものがあるような気がするのだ。

 フットワークは衰え始めている。が、ビリビリ 感じるのだ。

 気のせいかもしれないけれども・・・。

 でも、人生はみんな気のせいかもしれないから。

 僕は、もうじき日本に帰るのだけれども、 しばらく離れるイギリスという、もう僕には 父のようにも母のようにも思われる国に 言っておきたいことがある。

   「有難うございました」