シェイクスピアの音楽を語る(No.6 Summer 1996)

主宰 下館和巳 / 音楽 高橋明久

下館 よっちん(高橋のこと)には、僕の芝居の音楽についてはずいぶん前からお願
      いしていたんだよね。
高橋 1989年か90年ごろですか。
下館 もうずいぶんになるね。でも、二人のあいだでというかよっちんに音楽をたの
      んだ、そして引き受けたというのはそういう時間の長さを意識しているからだ
      と思うんだ。
高橋 『ロミオとジュリエット』からはじめて年代順に10作以上つくるという‥‥
下館 そう、その間芝居作りを通じて、ずっとお付き合いしていただいて、なおかつ
      よっちんにもその過程でさらにその才能を十分に出し切って、開花させていっ
      てほしいというか‥‥よく役者たちにもいうんだけれど、そういう意味で最初
      にすごく意気投合したんだよね。
高橋 勉強させてもらってます。(笑)
下館 実際に音楽をつくるとき、どんな感じでつくってるの?たとえば『ロミ・ジュ
      リ』のラスト・シーンの音楽はすごく評判がよかったんだけれども、あれに決
      まる前にもうひとつのラスト・シーン・ミュージックがあってそれはずいぶん
      本番のものとはちがうものだった。何種類もの音楽を重ね合わせた、すごく知
      的で前衛的なものだったけど。
高橋 あれは見ている人が期待しているラストのイメージを裏切りたかった という
      か、そんな印象を出したかったんですよね。でも、ボツになったやつのことは
      すぐ忘れるから。
下館 芸術家だね。陶芸家が自分の作品をばきばき割るみたいな。(笑)
高橋 そんなことはないんですけど。でも今度の『夏の夜の夢』の音楽はちょっと悩
      んだ。
下館 何といっても、バリ島のガムランと斎太郎節のエンヤートットのリズムを融合
      させたようなイメージでという注文だったからね。
高橋 それがなかなか融合しなかった。1ヶ月、2ヶ月たってもだめだった。
下館 こんなふうにいうと、よっちんに僕が無理難題を押し付けているという印象が
      伝わるけど、まあ実際そんなところもあるんだけど、逆によっちんに「ここは
      どうなんですか」、とか「こうじゃないんですか」とかいわれて、はじめて僕
      もいろんなことに気がついたり、問い詰められてやっと動くという自分もある
      んだよね。
高橋 まあ結果的に、できた冒頭の部分の音楽はバックをガムランのイメージで、主
      調音をラテン系サンバにしたものを狙いました。
下館 エンヤートットは‥‥
高橋 だめだった。(笑)
下館 でも、すごく宇宙的なイメージが感じられる曲になったね。
高橋 この話は妖精とかが普通にでてくるじゃないですか。それで宇宙から降ってき
      たわけのわからないものが、もやもやといるというような感じを出したかった
      んです。それにこの曲を作っているときに『Xファイル』を見てたから。あれ、
      好きなんですよ。
下館 『Xファイル』かぁ。
高橋 それに自分の音楽で劇の内容の不思議さを伝えたいんですよね。見ている人に
   妖精の世界という不思議なものをうけいれる媒介になってくれればと思うんで
   す。
下館 ファンタスティックなものが宇宙とつながっているんだな。『夏の夜の夢』も
   われわれが原作どおり、つまりヨーロッパ風にやると、きっとすごく違和感が
   でると思うんです。かえってこの地方の土着的な味を出すことで、その違和感
   が相殺されて、新しいおもしろさを出すんじゃないかと思った。そこにまたあ
   の不思議な音楽がそのおもしろさを引き立ててくれるような気がする。
高橋 何よりもこうして稽古を見て、先生の演出をみて、台本を何回も読むことが音
   楽を作るうえで一番のヒントになります。そういうなかで俺が思うのは、この
   芝居には人間が非現実なものに振り回されて、混乱して混乱して、その中で何
   かを気づく、再確認する、というものを感じます。ですから、ラストの曲はそ
   んなイメージを出してみたんです。
下館 あれもいい曲だな。いずれにしてもシェイクスピアの時代の音楽は残っていな
   いんだから、ぼくたちが、よっちんがそれを今の時代に作り上げて行くわけだ
   ね。
高橋 がんばります。