冷めぬ熱  (No.38 Spring 2005)

2代目ステージマネージャー 山路けいと

 拝啓 最近面白いと思ったことを2つ、皆様に紹介したいと思う。
■ 「国際劇場経営セミナー&シンポジュウム」(第三回)
今年2月に東京で2日間に渡って行われたセミナーを聴講した。劇場はどうしたら地域社会で最も面白い場所になれるのか、国内外の劇場経営者からの発表を中心とした非常に内容の濃いセミナーだった。例えば、米国オレゴン州のAshlandは、人口2万人で大都市から400キロ離れた立地ながら、 Oregon Shakespeare Festivalに毎夏40万人の観客を集めている。英国南部のChichester Festival Theatre は設立から40年を経て元気をなくしていたところ、創設者のローレンス・オリビエが掲げたコンセプトに立ち返ることと地域のニーズの吸収により、経営再建を果たした。英国 leads(人口70万)のWestYorksherePlayhouse は戦略的なマーケティングにより、上質な演目の上演、多種の割引チケットによる学生や低所得層への鑑賞機会の提供、劇場内外での教育的プログラムの実施、等の取り組みで劇場が地域住民の生活に入り込んでいる。
 一方で、日本の劇場からは「能登演劇堂」「ふらの演劇工房」の活動紹介があった。前者は仲代達也氏、後者は倉本聰氏の存在感により全国から観客を集めることに成功しているが、このリーダーが将来活動できなくなった時にどうするかという悩みが大きいという話が印象的だった。
■ NPO宮城ダンス ロンドン公演
「宮城ダンス」は、障害のある人とない人混合のダンスパフォーマンスグループで、この分野の第一人者であるロンドンのウォルフガング・シュタンゲ氏の指導を受けながら急成長している。主宰の定行俊彰氏のリーダーシップのもと、仙台での第一回作品の発表から2年弱の速さで、今年6月にロンドンで行われるフェスティバルでの公演が実現する。 2年ほど前から通訳・翻訳やイギリス側との渉外をサポートしてきたご縁で、私も今回の渡英に同行させていただけることになり、非常に楽しみにしている。パフォーマー個々人の特徴を生かした作品は「障害」を魅力ある個性に変え、また稽古や旅公演を重ねながら障害を持つ子どもたちにも自立心やプロ意識を醸成していく。そうしたプロセスのひとつひとつに新鮮な感動を覚えるのである。ロンドンでは、各国から集まるダンサーたちとの交流や作品鑑賞の機会があるため、たくさんの刺激を受けてそれを仙台に持ち帰ってほしいと思う。

   私は東京に移り住んで4年を超えた今も、こういった活動を見聞きしながら考えているのはやはりシェイクスピア・カンパニーのことである。そしていつも、頭の端で私たちの欲しい劇場のことを思い描いている。明確なコンセプト(シェイクスピアと東北文化)、市場のポテンシャル(仙台市)、リーダーシップと発信力(下館和巳先生)、10年来活動を共にするメンバーなど、私たちは特徴的なアドバンテージをいくつも持っている。いつか劇場を作り、そして「あそこに行けばいつも何か面白いことをやっている」粋な場所にしてやろう。そのために私がお金持ちになろうかと真剣に考えたが、それは気が遠くなる話である。具体的な第一歩に向けて、お知恵のあるかたにはとはぜひ語り合いたい。  かしこ