旅の途中(No.23 Spring 2001)

山路けいと

 1999年からの2年間 「ステージ・マネージャー」という立場で仕事をしてまいり
ました。元は役者や衣装デザインをしていましたが、イギリスまで行くことだけが
先に決まっていたマクベス公演では、プロデュースの仕事もダイナミックかもしれ
ない、いっちょ挑戦してみるかという思いで志願して裏方に専念いたしました。時
間との戦いでもみくちゃになりながらたどりつく本番ではどこも満場の観客に迎え
られ、その度に強く励まされました。そして未知数だったエディンバラ公演では最
終日、満員の客席からの鳴り止まぬ拍手と歓声のシャワーを浴びるカーテンコール
が現実のものとなりました。あの時のように感極まって号泣するなんということは、
一生に一度ぐらいじゃないのかなと、今でも思います。  とはいいましても、役者と違って裏方は準備が命、本番が始まると妙に淡々とす
るものだ、ということも発見しました。本当の千秋楽は別として、たいていはひと
つ本番が終わってもすでに気持ちは次の準備に向いているわけです。まぶしい照明
や観客の拍手、打ち上げの酒など酔えるものがたくさんある役者業と比べると、裏
方の喜びはもっと何気ないもので、たいていは騒ぎの後にそっと訪れます。それは、
公演が終わって帰路につく劇団員たちの、達成感に黒光りする瞳。エディンバラ終
演後の夕暮れに、下館先生と静かなパブで大事に飲んだビール一杯。帰国後に若い
劇団員から届いた少し切ないお礼のメール。・・・・・・印象に残る数々の瞬間が、今も
私の脳裏で静かに光っています。  もちろん、マクベス公演は私たちの長い旅の途中の出来事で、それは何かの始ま
りでも終わりでもありません。今年もまた新しい芝居が生まれ、わたしはさりげな
く役者に戻っているでしょう。いつか自分たちの劇場にたどりつく夢を見ながら、
まだしばらくはあっちへごろごろ、こっちへごろごろと転がってゆく日々が続きそ
うです。