London Diary

Vol. 10

31 May 2024

Umi Shimodate


『ポルトガルの夕陽に吸い込まれる』

夕暮れ時、マドリード王宮にあるコルニサ展望台から街の景色をぼんやりとしながら眺めていると一緒に旅をしていた幼馴染がひとりごとをつぶやくかのように「そうだ、ポルトガル、すごくいいよ、うみ好きだと思う」とぽつりと放った。

 

そのなにげない言葉に流されるように、次の旅の目的地はポルトガルのリスボンとなった。

 

電車から降り、地上に出るとポルトガルの透き通った空気と鮮やかな景色が私を出迎えてくれた。思いっきり、空気を吸い込んだ。

 

自分の肌に合っていると感じる国を歩いていると、心が躍り、煩悩など一気に吹き飛ぶ。はじめて地球に産まれ落ちた時のようなまっさらな気持ちになる。

 

雲ひとつない真っ青な空、車が歩行者と同じスピードでゆっくりと進めるくらいの狭い路地、いくつもの急斜面の坂、絵本の挿絵の世界に入り込んだかのような街並み。魚の匂い。

 

ものすごいスピードでポルトガルが私の心をつかんできた。

 

小腹が空いてきたのでレストランを探していると賑わっている小さなお店を発見。店員のおじさんにおすすめを聞くと「そりゃあBifanaだよ」と言われたので、注文することにした。Bifanaを頬張ってる人たちの表情はどこかすごくしあわせそう。

 

 

ひとくち、頬張る。おいしすぎる、ガツンと頭を殴られる美味しさ。ふたくち目の前にリピートが確定した。人生で初めて食べたにも関わらず、どこかで食べたことのあるようなノスタルジーを感じる。生姜焼きのような味だったかな。どうやらこれはポルトガルのソウルフードらしい。

リスボン、君はどれくらい魅力を秘めてるの?これを食べるためだけにまたポルトガルに絶対に帰ってこようとBifanaに約束をした。

 

私は旅をするたびにその国で夕陽を見ることを使命にしている。

 

リスボンにはたくさんの夕陽スポットがあるが初日は、グラサ展望台(Miradouro da Graça)と決めていた。

背中をぴったり合わせる恋人同士、有線イヤホンを耳につけて音楽と共に待つ若者、夕陽を背景に映画のワンシーンを撮っているひとたち。

それぞれの待ちかたで世界一美しい日没を待つ。

 


 

この瞬間は一瞬のようで永遠。夕陽の中に吸い込まれたいと思った。

 

朝一番に有名なCç. S. Vicente停留所付近のトラム。かわいらしいサイズ感。

 


 

カンカンカンと音を鳴らしながらすっごく細い道を走る、あまりの狭さに車内からは若干の緊張感が醸し出されている。

 

坂道ばかりのはずなのに、体が軽い。リスボンをもっと知りたいという気持ちが先行して足がどんどん前に進む。

 

ポルトガルはスープが美味しいと有名なので、それを目的にふらっと立ち寄ったレストラン。そこのオーナーさんらしきおじいさんは基本入り口に座り、アナログ式にアンテナを立ててラジオを聞いていた。店内は賑やかではなかったが、お客さんが帰るたびにその店主は扉を開けて送り出してあげていた。その姿はまるで孫を見送る祖父のような顔つきで、私は美味しいスープとその光景を目の前にこころがぽかぽかになった。

 


 

最終日、リスボンの海の玄関口でもあるテージョ川に面したコメルシオ広場で見た夕陽は永遠に海馬に刻まれていて欲しい。美しかったのは夕陽だけではなく、夕陽をみるために黄昏ている時間だった。ここにいる大勢の人たちが、ただひたすらオレンジ色に輝く光をみるために今日を生きたんだろうな。人は、美しく、心を奪われるものに出会うと「このために生きていたんだ」と直感的に思う。これからもこの感情に出会うために旅をして、人と出会う。

 


 

小さな街が大きい魅力を放つ、リスボン。

 

幼馴染の言葉通り、リスボンが大好きになった。