更新日:2012.8.3

主宰 下館和巳

 

 

 本を読んでいるとその文章を書いている人の声が聞きたくなることがある。既に知っている場合、その声が邪魔になる時もなくはないけれども、より深く文章がわかる。話す時の声の大きさや高さ速度や間、場合によっては、笑い声のようなものが、その人の言葉に大きな影響を与えているからだ。

 カンパニーを始めたばかりの頃、シシリー・ベリーという、英国の俳優ならば知らない人がいない声の先生が書いた”Voice and the Actor“という分厚い英語の本を読んでいた。「どうやってシェイクスピアを声にしたらいいんだろう?」と悩んでいた時にぴったりの本に思われたからだ。でも、わかるようでわからない。英語は決して難しくないのに、靴の上から足を搔くようなじれったさ以上のものがあった。いっそのことシシリーに会えばいい!と思って半年ほど過ぎて、幸運にもシシリーの教えを二週間にわたって受けることになった。シシリーはあの頃既に70歳を過ぎていたけれども、とってもチャーミングで毎日そばにくっついていると、いろんな俳優が近づいて来て、母と息子、母と娘のように、親しく喋る。

 私はシシリーの大ファンになって、いよいよシシリーの本を読むと!シシリーの笑顔が見えて、いくつもの声が聞こえて、水が砂にしみいるように、シシリーのあのわからなかった言葉が、細胞に浸透してくるのだった。うれしくて心はドラゴンボールの悟空のように空高く舞い上がっていった。