よし、やるべ!

更新日:2012.7.4

主宰 下館和巳

 

 3月11日からここまで辿り着くのに、およそ555日かかったことになる。とんでもないエネルギーだ。火山噴火に匹敵すると言ってもいいと、1992年シェイクスピア・カンパニーを立ち上げた時に思ったものだけれど、今度もあの何もないところからの出発を思った。お金もない、力もない、知恵もない。あったのは、劇場を創りたい!という「欲望」だけだった。でも、友達がいた。ひとりまたひとりまたひとり、と何もないところに集まってきてくれた友達がいた。 

 ほんとうによく喋った、一緒に食べて飲んだ。空中に摩天楼を描くように、東北のどこかにグローブ座を描いた。嘘なんだかほんとなんだかわからないと、みんないぶかしく思いながら、一緒にシェイクスピアを創ってくれた、創ったシェイクスピアを見てくれた、そして面白いよと、友達の友達を連れてきてくれた。劇団ができたのは1993年の秋だけれども、1995年の旗揚げ公演の時には最初30人しかいなかった観客が1000人になっていた。

 そして、それから丸々10年が過ぎた2006年の東北『ハムレット』の『破無礼』には延べ4000人を越える観客が集まった。僕たちが、あの地震の後のもっとひどい津波の後に、何もかもなくなったからもうやめようか、どうしよう・・・と茫然自失になっていた時に、思いだしたのが、お客さんの顔・顔・顔だった。わけのわからない僕たちを励まして拍手をしてかけ声をくれたお客さんのことだった。

 何もかもなくなったなんてことはない、僕たちが出会ったお客さんがいるじゃないか?僕たちが立ち上がって、また歩き始めたらきっとまた来てくれる!そう思った時に元気が沸いてきた。「よし、やるべ」!と思ったのは去年の今日だった。カンパニー・ジャーナルのために、力を振り絞るようにして「崩壊からの創造」という文章を書いた、奇しくも父の命日の7月5日だった。